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最高裁判所第一小法廷 昭和43年(オ)717号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中塚正信の上告理由および上告代理人竹内靖雄の上告理由について。

原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)は、上告人と訴外株式会社長谷部機械工作所との間の原判示(一)、(二)の土地交換契約が訴外会社の責に帰すべき事由により履行不能に帰し、これを理由とする上告人の契約解除が有効になされたものである旨、ならびに、民法五四五条一項但書にいう第三者とは、その契約から生じた法律効果を基礎として解除前に新たに権利を取得し対抗要件をそなえた者を意味するところ、被上告人は上告人の右契約解除前に訴外会社から原判示(一)の土地を譲り受けたがこれにつき所有権取得登記を経由していないものである旨を判示したうえ、さらに、上告人が右交換契約によつて訴外会社から譲り受けた原判示(二)の土地を工場敷地として自ら使用していること、上告人は、契約当時においても(一)の土地が訴外会社から被上告人に譲渡されるものであることを了承していたが、被上告人がこれを買い受けて病院敷地として使用するようになつた後は、その権利移転を認め、被上告人がその地上の建物の建築許可申請手続をするについても協力していたこと、上告人、訴外会社および被上告人の三者間において、(一)の土地につき、中間登記を省略し、上告人から被上告人に直接所有権移転登記をする旨の合意がなされたこと、上告人が訴外会社および被上告人から再三にわたり、右(一)の土地につき分筆登記のうえ被上告人に対し所有権移転登記手続をすべき旨の請求を受けながら、自己の都合で右登記手続を遷延し、約四年を経過するうち、(二)の土地について訴外会社に対する滞納処分として差押・公売がなされて前示のように交換契約が履行不能に陥つたこと、などの事実を認定し、このような事情のもとにおいて上告人が被上告人の(一)の土地の所有権取得につき登記の欠缺を主張することは信義則に照らし許されないと判断して、解除にかかわらず被上告人の権利は否定されないものとしているのである。そして、このような事実は、記録によれば原審において被上告人の主張していたところと認められ、その認定は、原判決挙示の証拠に照らして肯認することができるものであるところ、右の事実関係のもとにおいては上告人が被上告人に対し右登記の欠缺を主張することは信義則上許されないとした右判断は、正当として是認することができないものではない。右認定・判断の過程に所論の違法はなく、なお、計量法に関する所論の事情も原判決を違法とするものとはとうてい解されない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断および右事実の認定を非難し、原判決を正解しないで誤つた前提に立脚してその違法を主張し、さらに叙上の点につき独自の見解を主張して原判決を攻撃するものであつて、すべて採用することができない。

よつて、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩田 誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 大隅健一郎)

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